沖縄県浦添市の特定社会保険労務士・特定行政書士・1級FP松本@officegsrです。
企業で働いているみなさんは社会保険に入っている方も多いですよね。
でも社会保険には「被扶養者」というものがあって、被扶養者の範囲であれば自分で社会保険に入らず家族等の社会保険の被扶養者として健康保険証を使うことができます。
この被扶養者の範囲で働いている人はパート社員の方が多いと思います。
このパート・アルバイト従業員の方でも自分で健康保険に加入する義務がでてくるのが
社会保険の適用拡大
です。
従業員数101人以上、51人以上の企業で働いているパート・アルバイト従業員の方は必見です。
2022年10月から段階的に社会保険の適用が拡大されます
一般的な社旗保険の適用要件についてみてみましょう。
まず、社長などの法人の役員、それから正社員、週40時間のフルタイムで働く契約社員の方などが挙げられます。
そして、目安として1週間の所定労働日数および1カ月の所定労働日数が正社員の働き方の4分の3以上のパート・アルバイト従業員の方も社会保険の加入対象者となります。
このパート・アルバイト従業員の社会保険の適用拡大が段階的に進められているのです。
2022年6月現在では、従業員501人以上の企業で以下の要件すべてに該当するパート・アルバイト従業員の方は社会保険の適用対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 勤務期間1年以上またはその見込みがある
- 月額賃金が8.8万円以上
- 学生以外(休学中や夜間学生は対象)
そしてこの社会保険の適用拡大が法律改正され、2022年10月から以下のように変更になります。
- 適用事業所→従業員(被保険者)の総数が常時101人を超える事業所
- 短時間労働者の適用要件→雇用期間が2か月を超えて見込まれること
つまり2022年10月からは、社会保険の適用対象者が
- 従業員数が101人以上
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 勤務期間が2か月を超える見込みがある
- 月額賃金が8.8万円以上
- 学生以外(休学中や夜間学生は対象)
にすべて該当する方に拡大されるんです。
従業員は被保険者数になりますので、さきほどの正社員と正社員の働き方の4分の3以上の働き方をするパート・アルバイト従業員の数で考えます。
いままで配偶者の「被扶養者になっていた」方は、被扶養者の要件である
年収130万円未満
を越えないように注意してい働いていたかと思います。
年収130万円を12カ月で割りますとおおよそ月額10.8万円です。
おわかりになりますか?
10.8万円が上限だったところが8.8万円が上限となります。
これはあくまでも「従業員(被保険者)が101人以上の企業」で働くパート・アルバイト従業員が対象です。
2022年6月現在は従業数が501人以上の企業が対象です。
これは中小企業の中でも比較的規模の大きい企業が該当しますよね。
しかしそれが101人以上となると、結構な数の中小企業が該当するようになってくるのではないでしょうか。
現在要件に当てはまりそうなパート・アルバイト従業員の方は自分で社会保険に入るのか、それとも扶養の範囲で働くのか、今から考えて会社と働き方を相談しなければなりません。
従業員101人以上の企業は社会保険加入適用拡大に向けてこれから対策を取っていかないと、あとであわてることにもなります。
それは社会保険の適用が拡大するということは、社会保険を折半している会社の法定福利費が増加するためです。
社会保険料は会社が赤字であっても毎月支払うものになりますので、結構な固定費負担となります。
どれくらいの社会保険料が増額となるのか、シミュレーションが必要です。
社会保険適用拡大に向けて会社が準備すること
社会保険の適用拡大に向けて、従業員(被保険者数)101人以上の会社が準備することを解説します。
加入対象者を把握する
まずはとにもかくにも加入対象者を把握することです。
さきほどの、
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 勤務期間が2か月を超える見込みがある
- 月額賃金が8.8万円以上
- 学生以外(休学中や夜間学生は対象)
をもとに、現在働いているパート・アルバイト従業員の方の労働時間、契約期間、月額賃金を確認します。
よく「アルバイトは社会保険に加入しなくていい」なんて考えている会社も多いですが、実は「パート・アルバイト」の区別は法律上ありません。
その学生がアルバイトで昼間部の学生であれば加入対象外となりますが、夜間部の学生であれば対象になりえます。
要件にすべて該当する対象者が把握できれば、月額賃金をもとに協会けんぽ等の保険料額表からどの標準報酬の等級になるのかを確認します。
例えば沖縄県の2022年3月からの保険料額表では、標準報酬月額8.8万円で介護保険2号に該当しない40歳未満の方は健康保険4,439円、厚生年金8,967円の合計13,406円です。
社会保険料は従業員と同じ額を会社も負担しますから上記の合計額13,406円の会社負担が発生します。
対象となるパート・アルバイト従業員と相談する
対象者と想定される社会保険料が把握できたら、対象となる従業員と話し合いを持ちましょう。
従業員自身の社会保険料の負担が発生することから、まず手取りが減ります。
そして扶養の範囲で働きたいという方でも、自分で社会保険に加入することになります。
従業員が社会保険へ加入したくないという場合には、週の労働時間や月額賃金が要件に該当しないような働き方へ労働契約を変更する必要がでてきます。
労働時間が減るということはシフト制の職場などでは人手不足の問題が出てきます。
労働時間を変えないで月額賃金をが下げるということは時給が下がることになるので、労働条件の不利益変更の問題が生じてきます。
社会保険のメリットについて考えてみよう
上記の状況を見ていると「社会保険の適用拡大はデメリットしかない!」なんて思われがちですが、以下のようなメリットもありますので、社会保険の適用拡大が会社と従業員双方のためになるよう考えてみてはいかがでしょうか。
将来の年金が増える
厚生年金に加入するということは、加入した期間の分将来厚生年金が受給できるということです。
また、厚生年金加入中に病気やケガなどで障害状態になってしまった場合、障害基礎年金に加えて障害厚生年金が上乗せされます。
厚生年金加入者が亡くなってしまったときは要件が整えば遺族厚生年金も支給されますので、残された家族の安心につながります。
病気、ケガへの保障に備える
現在新型コロナウィルス感染症が猛威を振るっています。
市中感染、家族感染も非常に増えています。
そんな自己の病気で就労できなかった時、健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
傷病手当金は給与の日額の3分の2相当と考えてもらうとイメージしやすいです。
また出産のため産休を取得する期間も「出産手当金」が支給されます。
キャリアアップにつながる
よく相談会などで「扶養の範囲でお得な働き方を知りたい」という相談を受けます。
正直言いますと、配偶者の収入や家族の状況、将来のライフプランなども考慮する必要があり、一概にどれがお得というのは相談会の場では説明できません。
ただ「扶養の範囲内」というのは将来の年金も増えないですし、ご自身の保障も十分ではありません。
そのため、私は「扶養の範囲ギリギリを考えるのではなく、可能でれば突き抜けて労働時間を増やして将来の備えをした方がいいと思いますよ」と伝えています。
社会保険に加入することで目の前の手取り額が減ってしまいますが、その分労働時間を増やして家庭全体の総収入が増えるように働いた方が将来のメリットも大きいです。
もちろん子育てや家事の時間など家庭の事情で労働時間が簡単に増やすことができない事情もあるかと思います。
しかし、不確実性が増す現代社会において自分の老後の資金は自分で備えることが賢明に思われます。
会社内で正社員転換制度があるのであれば、思い切って正社員に転換するというのもありだと思います。
どのみち社会保険へ加入しないといけないのであれば、正社員になったほうが収入もアップしますし。
労働生産年齢人口が減少していくのが顕著な今、ますます人手不足になっていく時代です。
優秀なパート・アルバイト従業員に長く働いてもらいたいと考える会社も増えています。
「101人以上の会社が対象になるんだったら、今の会社辞めます」
と判断するのであれば非常にもったいないことをすると思います。
それまでの蓄えてきた経験知識を活かして、正社員としてあるいはより長い時間働けるパート・アルバイト従業員として働いてみてはどうでしょうか。
というのも、実は社会保険の適用拡大というのは今後も続くんです。
2024年10月からは従業員51人以上の企業が対象となることがすでに決まっています。
あなたが今転職しても、従業員51人以上の企業であったら2年後から社会保険の適用拡大対象となります。
もっとも将来的には全企業が対象になるかもしれません(しならないかもしれません)。
ご自身のライフプラン、家族のライフプランも含めて、老後の保障の見込み、自分自身の資産形成などなど、これを機会に考えてみるのもいいですね。
まとめ
2022年10月からの社会保険の適用拡大
その要件は、
- 従業員数が101人以上
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 勤務期間が2か月を超える見込みがある
- 月額賃金が8.8万円以上
- 学生以外(休学中や夜間学生は対象)
のすべてに該当するパート・アルバイト従業員となります。
そして企業が取るべき対応は、
- 対象者を把握すること
- 増加する社会保険料負担をシミュレーションすること
- 対象者と話し合うこと
でした。
そして新たに対象となる従業員は手取りが減る、扶養から外れるというデメリットもありますが、
- 将来の年金が増える(障害厚生年金、遺族厚生年金にもつながる)
- 傷病手当金出産手当金など医療保険が充実する
というメリットも大きいことがわかりました。
そして「101人以上の会社が対象になるなら転職したらいいじゃん」というわけにはいかず、将来的には従業員51人以上の企業にも拡大されることがわかりました。
追加で説明しますと、家族の扶養に入っていない例えば国民年金、国民健康保険に加入している方などは給与の手取りは減ってしまいますが、自分で払っていた国民年金、国民健康保険の保険料が会社が天引きして半分負担してくれると考えたら実はお得だったりします。
すでに厚生年金を受給している方でも、厚生年金に加入して働いた分、毎年年金額が改定される制度(在職時改定)に変更もされています。
社会保険適用拡大を負担だと考えずに、会社にとっては優秀なパートアルバイト社員を正社員に転換する良い機会として、従業員は自分自身の保障を充実させる良い機会としてとらえてみてはいかがでしょうか。