沖縄県浦添市の特定社会保険労務士・特定行政書士・1級FP松本@officegsrです。
いまだに猛威を振るう新型コロナウィルス感染症。
2020年4月から同一労働同一賃金がスタートしておりましたが、すっかりコロナの陰にひそんでしまいました。
実は2021年4月から、もうひとつ大事な制度がスタートしているんです。
それが「70歳までの就業確保努力義務」
改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月1日から施行されています。
日本は人口の高齢化が進行している「高齢社会」。
高年齢社員の活用は避けては通ることのできない道なんです。
法改正を機に、高年齢社員の活用を検討したい!と考えている事業主は必見です。
(この記事は2022年3月現在の法令をもとに記載しています)
動画の解説はこちらです。
定年、継続雇用の引き上げを促す改正高年齢者雇用安定法
なぜいま定年や継続雇用の年齢を引き上げようという動きがあるのでしょうか。
みなさんもよくご存じのように日本は全人口に占める高齢者の割合が世界的にも高い割合となっています。
2021年12月1日の日経新聞の記事でも、15歳から65歳未満までの生産年齢人口が全人口の6割を切ったということがニュースになっておりました。
生産年齢人口、ピークの95年比13.9%減 国勢調査確定値(日経新聞電子版)
65歳以上の就業人口は確実に増えています。
一方、65歳未満の就業人口は確実に減ってきています。
65歳以上の高年齢者を戦略的に活用しなければ、企業の人手不足に拍車がかかることは明白です。
労働者一人当たりの生産性を向上させ1人で2人分の仕事ができるようになればいいのですが、そう簡単にはいきません。
また、ベテラン社員の技能・知識・経験をいかに若年社員に伝えていくのか。
高年齢社員の持てる力を十分に活用し、企業の生産性と収益力の向上拡大を目指す。
改正高年齢者雇用安定法は、ただ企業に高年齢社員の雇用を押し付けているのではありません。
高年齢社員の活用を今後検討していかないと、企業の存続そのものが危ういのです。
改正高年齢者雇用安定法について
高年齢者雇用安定法の2013年改正では、65歳未満の定年の定めをしているすべての事業主は次の3つのうちいずれかの措置を講じなければならないと定められました。
- 65歳以上へ定年引上げ
- 希望者全員を対象とする65歳以上の継続雇用制度の導入
- 定年の定めの廃止
現在65歳までの継続雇用制度を導入している企業が、ほとんどだと思います。
先ほども述べたように、労働生産年齢人口が減少することは今後も顕著な未来であり、企業が長期に継続・発展を続けるためにも、労働者一人当たりの労働生産性の向上あるいは今後増加する高年齢者の活用がますます必要となってきております。
そこで、2021年4月1日より「70歳までの就業機会の確保」について、企業に「努力義務」を課すよう改正高年齢雇用安定法が施行されました。
「雇用の確保」義務ではなくて「就業機会の確保」努力義務となっているところが、2013年改正と違ったところになっています。
改正高年齢者雇用安定法の対象となる事業主
今回の改正高年齢者雇用安定法の対象となる事業主は
- 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
- 65歳までの継続雇用制度を導入している事業主
です。
すでに70歳以上まで引き続き雇用する制度を導入している会社は除かれます。
改正高年齢者雇用安定法の「高年齢者就業確保措置」
改正高年齢者雇用安定法で求められる「高年齢者就業確保措置」努力義務の措置は次の5つです。
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) - 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
1,2は70歳定年または定年廃止なので、わかりやすいですね。
3も現状の65歳までの継続雇用制度を70歳まで延長するもので、まだわかりやすい。
4,5が今回の改正です新たに加わった「就業確保=創業支援措置」と言える部分ですね。
4は定年した社員が「個人事業主」として独立する方で、定年後退職した社員に業務を委託するというものです。
個人事業主として独立しするので、まさに創業支援措置ですね。
この場合個人事業主となるので、会社の社会保険から外れることになります。
5の「社会貢献事業」の制度がちょっとイメージが難しいかもしれません。
これは今後導入事例や活用事例が出てくることで、活用が増えていくと思います。
「会社が実施する社会貢献事業などの有償ボランティアとして会社が事業を実施するときに報酬や経費を会社が支出することを契約する形」と説明しておきます。
4,5の措置のみをとる場合は、過半数労働組合の「同意」が必要です。
高年齢者就業確保措置の対象者の基準について
現状65歳までは雇用を確保することは義務となっております。
それを70歳まで延長してほしいというところですが、努力義務ですので対象者を限定する基準を設けて良いことになっております。
ただ、会社が勝手に決める基準を決めて良いのではなく、労使で十分に協議したうえで、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいとされています。
不適切な例としては「会社が認めた者に限る」とかです。
これは基準があってないようなものです。
「男性に限る」なども男女差別につながりますので、認められません。
会社と労働者側が協議すること
就業確保措置は会社が一方的に導入する制度を決めるのではなく、会社と労働者側がよく話し合って高年齢社員が長く働くことができる制度を導入することが大切です。
会社が一方的に決めた制度で「長く働きたい」と思う人も、あまりいないかなと思いますよね。
就業機会確保の話し合いを進めることで
「会社は社員を大切にしたいと考えているんだな」
ということが社内に伝わる良い機会になります。
必ずしも「一つの制度を導入する」ではなく「複数の制度を組み合わせる」ことも可能です。
会社は「社員が長く働くことができる制度はどういうものがあるだろうか」
労働者側は「この会社で長く働くためにはどのような制度があると働きやすいだろうか」
というお互いの意見をすりあわせていくことで、より良い制度を導入することができます。
というのも、退職金を導入している企業であれば、定年延長になると退職金の支給を繰り下げるのかどうかという話問題がでてきます。
また、定年後も同じ仕事するのに賃金がダウンするというのはモチベーションの低下にもつながるので、賃金をどうするのか?という問題も出てきます。
一方ではフリーランスとして独立して、自由に働く方が働きやすい環境の職場もあるでしょう。
会社は人件費のことで悩ましいと思いますが、労働生産性を向上させないと人手不足にますます拍車がかかるのは中長期的には予測できていることです。
またエッセンシャルワークなど対面で行う事業の場合は、IT機器を導入しても労働生産性の向上には限りがあります。
10年後、20年後も企業が継続していくための必要な人材の確保ができるよう、改正高年齢者雇用安定法の制度を利用して、対策を検討し講じましょう。
ちなみに過半数労働組合がない場合は、過半数を代表する労働者代表を選出して話合いを行う必要があります。
話し合いをする労働者代表を会社が指名しちゃだめですよ。
管理監督者以外の者で、民主的な手続きで選出された代表であることが必要です。
定年制度、継続雇用制度見直しのための助成金
定年引上げ、継続雇用制度見直しに活用できるのが、
「65歳超雇用推進助成金」
です。
- 65歳超継続雇用促進コース
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
の3コースがあり、「65歳超継続雇用促進コース」は、就業規則の改定、高年齢者の雇用管理に関する措置を導入する、1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者がいる、などの要件を満たせば支給される人気の助成金でしたが、人気ゆえ令和3年度は年度途中で募集が締め切られました。
令和4年度は支給金額の規模が縮小される見通しです。
まとめ
改正高年齢者雇用安定法による「70歳までの就業確保措置努力義務」
努力義務を負う事業主は、
- 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
- 65歳までの継続雇用制度を導入している事業主
でした。
多くの会社があてはまるのではないでしょうか。
そして就業機会の確保については、
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) - 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
の5つが選択肢となっておりました。
どの就業確保措置にするのかは会社と労働者側がよく話し合うこと、どれか一つの制度を導入しても良いし、複数組み合わせることも可能でした。
会社と労働者の話し合いでは、過半数労働組合あるいは過半数労働者代表と話し合うことを説明しました。
社員の理解なき制度の導入は、早晩うまく機能しなくなる可能性があります。
定年引上げ、継続雇用制度の見直しに活用できる助成金として「65歳超雇用推進助成金」がありました。
令和3年度は支給額の引き上げがあったので人気が出て、年度途中で募集が締め切られてしまいました。
令和4年度は支給枠が細分化され、結果として縮小した形で実施される見込みです。
定年年齢・継続雇用制度の引き上げには、賃金制度、退職金制度、人事評価制度の見直しなど
「年齢を引き上げて終わり」
だけとはいかない、さまざまな課題の解決が必要となってきます。
会社単独でこれらの問題に取り組むのは、難しいところもあるかと思います。
高年齢社員の戦略的活用で困ったときは、人事・労務管理の専門家である社会保険労務士へぜひご相談ください。