
こんにちは、沖縄の社労士、行政書士、1級FP技能士の松本@officegsrです。
人手不足が続く中で、60代・70代の社員にどのように働いてもらうかは、多くの中小企業にとって重要な経営課題になっています。
これまでは、「定年後に再雇用するか」「何歳まで雇用するか」という制度面の話が中心になりがちでした。
もちろん、制度を整えることは大切です。
しかし、これからの高年齢者雇用では、それだけでは不十分です。
大切なのは、70歳まで雇うことではなく、70歳まで活かすことです。
高年齢社員には、長年の経験、技能、判断力、顧客との関係、現場の勘があります。
一方で、体力面、健康面、安全面への配慮も必要になります。
つまり、高年齢者雇用は、単なる法対応ではありません。
人材不足の時代に、経験ある社員の力をどう活かし、若手へどう引き継ぎ、会社の戦力としてどう位置づけるかという人材戦略のテーマです。
この記事では、中小企業が高年齢社員を戦略的に活かすために考えたいポイントを、70歳就業確保措置の基本から、役割設計、賃金・評価、安全配慮、助成金・補助金の活用まで整理します。
70歳就業確保措置の基本

まず、70歳就業確保措置の基本を確認しておきます。
改正高年齢者雇用安定法により、事業主は70歳までの就業機会を確保するため、一定の措置を講ずるよう努めることとされています。この改正は令和3年4月1日から施行されています。厚生労働省は、70歳までの就業確保措置として、複数の選択肢を示しています。(厚生労働省HP)
具体的には、次のような措置です。
- 70歳までの定年引上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
ここで大切なのは、70歳定年が一律に義務化されたわけではないという点です。
70歳までの就業確保措置は、事業主に対する努力義務です。
また、定年を70歳に引き上げることだけが選択肢ではありません。
会社の業種、規模、職員構成、業務内容、高年齢社員の状況に応じて、どのような形で就業機会を確保するかを考える必要があります。
ただし、「努力義務だから、まだ本格的に考えなくてもよい」と受け止めるのは少しもったいないです。
少子高齢化が進む中で、経験ある社員にどう活躍してもらうかは、多くの会社にとって避けて通れないテーマです。
特に中小企業では、長年会社を支えてきた社員が抜けることで、技術、顧客対応、現場判断、業務の段取りが一気に失われることがあります。
だからこそ、70歳就業確保措置は、単に法律に対応するための制度ではなく、自社の人材をどう活かすかを見直す機会として考えることが大切です。
高年齢社員を「残す」だけではうまくいかない

高年齢者雇用でよくあるのが、「とりあえず今の社員に残ってもらう」という考え方です。
もちろん、人手不足の中で、経験ある社員に残ってもらえることは会社にとって大きな助けになります。
しかし、高年齢社員を残すだけでは、うまくいかないことがあります。
たとえば、次のような状態です。
- 定年後も仕事内容がほとんど変わっていない
- 賃金は下がったが、責任は以前と同じ
- 本人の体力や健康状態に合った役割になっていない
- 若手社員との役割分担が曖昧
- 評価や期待する成果がはっきりしていない
- 周囲がどこまで頼ってよいのかわからない
このような状態では、本人も職場も迷いやすくなります。
本人からすると、「再雇用になって賃金は下がったのに、やっている仕事は前と変わらない」と感じるかもしれません。
会社側からすると、「経験があるから、これまでどおり頼みたい」という思いがあります。
若手社員から見ると、「どこまでお願いしてよいのか」「自分たちとの役割の違いは何か」が見えにくくなります。
ここに、すれ違いが生まれます。
高年齢社員を活かすには、雇用を延ばすだけでは足りません。
その人にどのような役割を担ってもらうのか。
会社として何を期待するのか。
本人が無理なく働ける形は何か。
若手や管理者とどう関わってもらうのか。
ここを整理しておくことが大切です。
高年齢者雇用は、雇用契約を延長するだけの話ではありません。
職場の中での役割を再設計する話でもあります。
まず整理したいのは役割

高年齢社員の戦略的活用で、最初に整理したいのは役割です。
何歳まで働いてもらうかを考える前に、何を担ってもらうかを考える必要があります。
高年齢社員には、長年の経験があります。
ただ、その経験は人によって異なります。
現場作業に強い人もいます。
顧客対応に強い人もいます。
若手への指導が得意な人もいます。
品質確認や安全確認に向いている人もいます。
会社の歴史や取引先との関係をよく知っている人もいます。
こうした強みを、どのように会社の中で活かすかを考えることが重要です。
たとえば、次のような役割が考えられます。
- 若手社員への技能承継
- 新人や中堅社員への現場指導
- 品質管理や確認業務
- 顧客対応やクレームの初期対応
- 安全確認や作業手順の見直し
- 繁忙期の後方支援
- 管理者の補佐
- 社内ルールや業務手順の整理
もちろん、すべての高年齢社員に同じ役割を任せる必要はありません。
大切なのは、その人の経験、体力、意欲、得意分野に応じて、会社としての役割を言葉にすることです。
役割が曖昧なままだと、本人も周囲も動きにくくなります。
本人は「自分は何を期待されているのか」が見えにくくなります。
周囲は「どこまでお願いしてよいのか」がわからなくなります。
会社は「雇用しているけれど、十分に活かせていない」という状態になりやすくなります。
高年齢社員の活用は、年齢で判断するのではなく、役割で考えることが大切です。
賃金と評価は役割とセットで考える

高年齢社員の雇用で、特に悩みやすいのが賃金です。
定年後再雇用では、賃金を見直す会社も多いと思います。
しかし、給与だけを下げると、本人の納得感が下がることがあります。
会社としては、「定年後再雇用だから条件が変わる」と考えているかもしれません。
しかし、本人から見ると、仕事内容や責任がほとんど変わっていない場合、「なぜ賃金だけ下がるのか」と感じやすくなります。
ここで重要なのは、賃金を役割とセットで考えることです。
- 仕事内容はどう変わるのか
- 責任の範囲はどう変わるのか
- 勤務時間や勤務日数はどうするのか
- 若手育成や技能承継の役割を持つのか
- 評価の対象は何か
- 成果をどのように確認するのか
こうした点を整理せずに金額だけを決めると、説明が難しくなります。
高年齢社員の賃金制度は、「下げるか、維持するか」という単純な話ではありません。
その人にどのような役割を期待するのか。
その役割に対して、どのような処遇が妥当なのか。
会社としてどのように説明するのか。
この順番で考えることが大切です。
また、定年後再雇用や有期契約の処遇を考える際には、いわゆる同一労働同一賃金の観点も無視できません。
業務内容、責任の程度、配置変更の範囲、その他の事情を踏まえ、処遇差を説明できるかどうかが重要になります。
特に「仕事は同じなのに賃金だけ大きく変わる」という状態は、実務上トラブルの火種になりやすい部分です。
評価制度も同じです。
定年前と同じ評価項目でよいのか。
それとも、若手育成、技能承継、安全確認、後方支援など、高年齢社員に期待する役割に応じた評価項目を設けるのか。
高年齢社員を戦力として活かすには、賃金と評価を役割に合わせて見直す必要があります。
「再雇用だからこの条件です」と説明するよりも、「この役割を担っていただくため、このような働き方と処遇にします」と説明できる方が、本人の納得感につながりやすくなります。
健康・安全配慮も欠かせない

高年齢社員に長く働いてもらうには、健康・安全配慮も欠かせません。
経験が豊富で、本人の意欲も高い。
それでも、年齢とともに体力や反応速度、疲労の回復には変化が出てくることがあります。
会社としては、「長年やっている仕事だから大丈夫」と思うかもしれません。
本人も、「まだまだできる」と考えているかもしれません。
しかし、無理が少しずつ積み重なると、事故や体調不良につながる可能性があります。
高年齢社員の活用では、次のような点を確認しておきたいところです。
- 長時間勤務になっていないか
- 重い作業や負担の大きい作業が集中していないか
- 休憩を取りやすい環境か
- 危険作業の担当が適切か
- 本人の健康状態や希望を確認しているか
- 周囲が無理をさせすぎていないか
- 万一の体調不良時の対応が決まっているか
健康・安全配慮は、高年齢社員を特別扱いするためのものではありません。
経験を活かして長く働いてもらうための土台です。
厚生労働省は、エイジフレンドリー補助金について、高年齢労働者の労働災害防止のための設備改善や、専門家による指導を受けるための経費の一部を補助する制度として案内しています。
令和8年度は申請受付期間も示されており、予算額に達した場合は受付期間中でも終了する場合があるとされています。(厚生労働省HP)
たとえば、段差解消、作業負担の軽減、転倒防止、暑熱対策、専門家によるリスクアセスメントなどは、高年齢社員が安心して働き続けるための環境整備と関係します。
もちろん、補助金は要件を満たせば必ず受けられるというものではありません。
対象となる取組、申請時期、必要書類、予算状況などを確認する必要があります。
それでも、こうした制度を知っておくことで、会社の負担を抑えながら安全な職場環境を整える選択肢が広がります。
高年齢社員の経験を活かすには、健康と安全への配慮が土台になります。
助成金・補助金を活用できる場合もある

高年齢者雇用の制度整備を進める際には、助成金や補助金の活用を検討できる場合があります。
たとえば、65歳超雇用推進助成金は、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働ける生涯現役社会の実現を目的として、65歳以上への定年引上げ、高年齢者の雇用管理制度の整備、高年齢の有期契約労働者の無期雇用転換などを支援する制度です。(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
その中の高年齢者評価制度等雇用管理改善コースでは、高年齢者の雇用管理制度の整備に関する支援が行われています。
高齢・障害・求職者雇用支援機構は、令和8年度の支給申請の手引きや申請書類を公表しており、雇用管理整備計画書の提出時期なども案内しています。(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
高年齢社員向けの賃金制度、評価制度、労働時間制度、健康管理制度などを見直す場合、こうした助成金の対象となる可能性があります。
また、安全な職場環境の整備については、前述のエイジフレンドリー補助金が関係する場合があります。(厚生労働省HP)
ただし、助成金や補助金は、後から思いついて申請すればよいものではありません。
多くの場合、事前の計画、就業規則等の整備、実施時期、対象者、申請期限などが重要になります。
そのため、助成金・補助金の活用を考える場合も、まずは「何のために制度を見直すのか」を明確にすることが大切です。
- 70歳までの就業確保にどう対応するのか
- 高年齢社員にどのような役割を担ってもらうのか
- 賃金や評価をどう整えるのか
- 安全で働きやすい職場環境をどう作るのか
このような制度設計があってこそ、助成金や補助金も活きてきます。
助成金ありきではなく、会社の方針と制度設計が先です。
そのうえで、活用できる制度があれば検討する。
この順番が大切です。
まとめ

70歳就業確保措置は、単なる法対応ではありません。
高年齢社員をどのように活かすかという、人材戦略のテーマです。
制度としては、70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度、業務委託契約制度、社会貢献事業への従事制度など、複数の選択肢があります。これは70歳定年を一律に義務づけるものではなく、事業主がいずれかの措置を講ずるよう努める努力義務です。
しかし、制度を作るだけでは十分ではありません。
高年齢社員を戦略的に活かすためには、次の点を整理する必要があります。
- 高年齢社員にどのような役割を担ってもらうか
- 経験や技能をどのように若手へ引き継ぐか
- 賃金と評価を役割に合わせて説明できるか
- 健康や安全に配慮した働き方になっているか
- 助成金や補助金を活用できる可能性があるか
- 本人も周囲も納得できる制度になっているか
70歳まで雇う時代から、70歳まで活かす時代へ。
これからの中小企業にとって、高年齢社員の活用は、単なる雇用延長ではありません。
会社の経験と技術を次の世代につなぎ、人材不足の中でも組織を支えるための重要な取組です。
社労士オフィスGSRでは、高年齢者雇用、70歳就業確保措置、定年後再雇用制度、賃金制度、人事評価制度、役割設計、健康・安全配慮など、中小企業の実情に合わせた仕組みづくりを支援しています。
高年齢社員の活用や70歳就業確保措置への対応でお悩みの場合は、制度を作るだけでなく、現場で使える形に整えていくことをおすすめします。
沖縄県浦添市の社会保険労務士、行政書士、1級FP技能士である松本崇が、「高年齢社員を戦略的に活かすために中小企業が考えたいこと」について解説しました。

