沖縄県浦添市の特定社会保険労務士・特定行政書士・1級FP松本です。
みなさんは「介護職員等特定処遇改善加算」ってご存じですか?
従来からある「介護職員等処遇改善加算」については、以下のブログで簡単に説明しました。
今回は令和元年10月からスタートした「介護職員特定処遇改善加算」について簡単にわかりやすく説明します。
介護職員特定処遇改善加算について検討している事業所、管理者の皆さんは必見です。
(この記事は令和2年10月現在の情報をもとにしています)
介護職員等特定処遇改善加算について
介護人材確保のためには給与アップなどの処遇改善への取組が重要ですよね。
そこで政府は、介護職員等の処遇改善をより一層進めるために、経験・技能のある職員に重点的に改善することを図りながら、介護職員の更なる処遇改善の検討を進めてきました。
そこで具体的出てきた処遇改善策が「介護職員等特定処遇改善加算」です。
「介護職員等特定処遇改善加算」が従来からの処遇改善加算と異なるところは、賃金改善の実施が介護職員に限定されるわけではなく、他の介護職員(事務職員や看護師:一部条件あり)などの処遇改善にもこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運⽤を認めるところです。
また、介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について「⽉額平均8万円相当の処遇改善を⾏うことを算定根拠」に処遇改善を行う制度を創設しました。
これが「月額8万円アップ」と独り歩きしていますが、必ずしもベテラン介護職員すべてが月額8万円アップになるわけではないので注意が必要です。
特定処遇改善加算のイメージ
特定処遇改善加算のイメージは上の図を見るとわかりやすいですね。
従来の処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)を算定している事業所が、特定処遇改善加算の要件をさらに満たすと、新加算(Ⅰ)または新加算(Ⅱ)をさらに算定できるという仕組みです。
従来の加算(Ⅳ)と(Ⅴ)はいずれ廃止になる見通しですので、従来加算(Ⅰ)~(Ⅲ)への移行を促す感もありますね。
また、上記資料をごらんいただくとわかりますが、加算(Ⅰ)の取得率が事業所の67.9%と、ほぼ7割の事業所が、加算(Ⅱ)、(Ⅲ)も合わせますおよそ9割の事業所が特定処遇改善加算のチャンスがあるというのがわかります。
「特定なんて目指すの難しいかな・・・」と思う前に、「うちの事業所は対象なのか、対象になるのならどの要件を満たせばいいのか」と調べてみる価値はありますよ。
特定処遇改善加算のための要件とは?
特定処遇改善加算の取得要件は以下の3つです。
- 現⾏の介護職員処遇改善加算(Ⅰ)から(Ⅲ)までを取得していること
- 介護職員処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を⾏っていること
- 介護職員処遇改善加算に基づく取組について、ホームページへの掲載等を通じた⾒える化を⾏っていること
現⾏の介護職員処遇改善加算(Ⅰ)から(Ⅲ)までを取得していること
これは先ほども説明しましたが、およそ9割の事業所が従来加算の(Ⅰ)から(Ⅲ)をすでに満たしていますので、ほとんどの事業所は要件クリアしていると思います。
まだ要件を満たしていない事業所は、これを機会にぜひ要件を確認してみましょう。
介護職員処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を⾏っていること
これは、処遇改善加算の職場環境等要件の中で、「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」の各区分について、1つ以上の取り組みを行っているということです。
従来の加算の場合は「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」の取り組みについて「いずれかの処遇改善の取り組みを行うこと」が要件でした。
しかし、特定処遇改善加算の要件を満たすためには、「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」のすべての項目で何かしらの取り組みをすることが求められます。
例えば、「資質の向上」でいえば、
- 働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対する喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援(研修受講時の他の介護職員の負担を軽減するための代替職員確保を含む)
- 研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動
- 小規模事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築
- キャリアパス要件に該当する事項(キャリアパス要件を満たしていない介護事業者に限る)
という要件から、事業所ですでに取り組んでいるまたはこれから取り組むことができる要件を検討します。
「労働環境・処遇の改善」でいうと、
- 新人介護職員の早期離職防止のためのエルダー・メンター(新人指導担当者)制度等導入
- 雇用管理改善のための管理者の労働・安全衛生法規、休暇・休職制度に係る研修受講等による雇用管理改善対策の充実
- ICT活用(ケア内容や申し送り事項の共有(事業所内に加えタブレット端末を活用し訪問先でアクセスを可能にすること等を含む)による介護職員の事務負担軽減、個々の利用者へのサービス履歴・訪問介護員の出勤情報管理によるサービス提供責任者のシフト管理に係る事務負担軽減、利用者情報蓄積による利用者個々の特性に応じたサービス提供等)による業務省力化
- 介護職員の腰痛対策を含む負担軽減のための介護ロボットやリフト等の介護機器等導入
- 子育てとの両立を目指す者のための育児休業制度等の充実、事業所内保育施設の整備ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善
- 事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成による責任の所在の明確化
- 健康診断・こころの健康等の健康管理面の強化、職員休憩室・分煙スペース等の整備
から、すでに取り組んでいるまたはこれから取り組みができそうな要件を検討します。
「その他」の要件は、
- 介護サービス情報公表制度の活用による経営・人材育成理念の見える化
- 中途採用者(他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等)に特化した人事制度の確立(勤務シフトの配慮、短時間正規職員制度の導入等)
- 障害を有する者でも働きやすい職場環境構築や勤務シフト配慮
- 地域の児童・生徒や住民との交流による地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上
- 非正規職員から正規職員への転換
- 職員の増員による業務負担の軽減
から、すでに取り組んでいるまたはこれから取り組みができそうな要件を検討します。
「その他」の「5正社員転換」などはキャリアアップ助成金を活用している事業所は該当しますよね。
以上のように何かしらの項目を実施していることもあるので、実は要件を満たすという場合もあります。
まずは事業所の取り組みを一度確認してみると良いでしょう。
介護職員処遇改善加算に基づく取組について、ホームページへの掲載等を通じた⾒える化を⾏っていること
介護職員処遇改善加算に基づく取組みについては、ホームページへの掲載等を通じて「⾒える化」を⾏っていることが要件です。
具体的には以下の通りです。
次の内容について介護情報サービス情報公開制度を活用して公開していること
- 処遇改善に関する加算の算定状況
- 賃金以外の処遇改善に関する具体的な取り組み内容
あるいは、事業所のホームページがある場合は、そのホームページでの公表でもOKとされています。
特定処遇改善加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い
特定処遇改善加算(Ⅰ)を算定するためには、サービス提供体制強化加算、特定事業所加算、日常生活継続支援加算、入居継続支援加算のいずれかを取得していることが必要です。
ただしサービス提供体制強化加算は最も高い区分、特定事業所加算は従事者要件のある区分に限られれます。
上記の加算を取得していない場合は、特定処遇改善加算の要件を満たしていても加算(Ⅱ)となります。
特定処遇改善の加算率
特定処遇改善の加算率は上記の通り。
訪問介護の加算(Ⅰ)の率が6.3%と手厚いですね。
残念ながら、以下のサービスは加算率が0%です。
<加算率0%のサービス>
(介護予防)訪問看護 、(介護予防)訪問リハビリテーション、(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、(介護予防)居宅療養管理指導、居宅介護支援、介護予防支援
特定処遇改善加算の賃金改善ルール
これがまたちょっと悩ましいのですが、この特定処遇改善加算の支給額を職員に配分するときに、一定のルールがあります。
従来の処遇改善加算のように、自由にできる訳ではありません。
具体的には、
- 経験・技能のある介護職員」の中で、月8万円の処遇改善となる人、または年収の見込み額が440万円を超える人がいること。
- 「経験・技能のある介護職員」の平均引き上げ額を、「その他の介護職員」の2倍以上とすること。
- 「その他の職種の職員」の平均引き上げ額が、「その他の介護職員」の2分の1を上回らないこと。
です。
「2:1:0.5の比率にします」
なんて説明で行ったりもしますが、ざっくりいうと
- ・7万円加算があればベテラングループに割り当てる額を4万円としたら、その他(一般の)介護職員グループには2万円、その他職員(事務や看護師)グループには1万円割りあてる
- ・ベテラングループに5万円、その他(一般の)介護職員2万5千円、その他職員0円
などなど、配分ルールに従ったいろんなバリエーションがあります。
この配分ルールについての説明が簡単ではない、というのが正直なところです。
なおベテラングループとなる「経験・技能のある介護職員」には、「勤続10年以上の介護福祉士」が目安となっていますが、「勤続10年以上」の判断には事業所の裁量が認められているので、事業所のなかのだれを10年選手と見立てるのか、また年数にはこれまでの職歴(前の職場の経験)も含めるのかなど、「勤続10年以上」というのを事業所独自の能力評価に基づいて加算の対象とすることも認められています。
処遇改善にはきちんと取り組み書類はしっかり整理しよう
処遇改善加算および特定処遇改善加算を実施するためには、毎年計画届と実績報告が必要です。
計画だけ立てて書類を作っても、実際に昇給や昇格を実施していない、研修を開催しても記録が残っていないなど、「加算ありき」の事業所がみられるのも事実です。
計画を立てたら、職員の処遇改善のためにもしっかり取り組むこと、取り組んだ結果はしっかり記録に残すことが重要です。
実地指導などで記録を確認するときに「何も残っていません」となると、大変です。
加算額以上に賃金改善が実施されていないと行政に判断されると、不正受給や返還命令を受けたりする恐れがあります。
管理者の方は、日頃から職員の処遇改善の実施と記録を意識しておきましょう。
まとめ
いかがでしたか。
介護職員等特定処遇改善加算については、
賃金改善の実施が介護職員に限定されるわけではなく、他の介護職員(事務職員や看護師:一部条件あり)などの処遇改善にもこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運⽤を認める
ということでした。そして、
従来の加算(Ⅰ)~(Ⅲ)を算定している事業所については、特定処遇改善加算の算定を検討してみることができる
ということでしたね。
- ・職場環境要件は3つの項目のすべてに何らかの取り組みをしていること。
- ・ホームページ等への掲載を通じて見えるかを行っていること
も要件でした。
また特定加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い、加算率がサービスで異なること、加算率0%のサービスもあることがわかりました。
さらに、特定処遇改善加算の支給額は自由に配分できるわけではなく、ベテラン、一般、その他職員で、配分ルールの比率に従って配分する、ということが重要だと述べました。
「金属10年以上」というのも、必ずしもその事業所で10年以上勤めている人がいないとダメかというわけではなく、事業所独自の能力評価で加算の対象とすることも可能です。
そして処遇改善の計画を立てたらしっかり取り組むことと、記録の整理が重要です。
介護職員の処遇改善・特定処遇改善加算に関心がある事業所は、各都道府県の介護労働安定センターや人事制度の作成に詳しい社会保険労務士へ相談すると良いですよ。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。