
こんにちは。、沖縄の社労士、行政書士、1級FP技能士の松本@officegsrです。
令和6年度に処遇改善加算制度が一本化されたことで、職員の待遇改善と合わせて、職場環境等要件の必須項目が強化され、より戦略的な対応が求められるようになりました。
今回は、この職場環境要件の区分のひとつ「入域促進に向けた取組」のなかの「法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化」について、実践的な5つのステップを解説します。
理念の明確化は、それに共感する価値観の合う人材だけを選別し、採用ミスマッチを大幅に減らす効果があります。
複雑な制度対応と労働環境整備の両立には、社会保険労務士などの専門家との連携が不可欠です。
法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化の5つのステップ

新・処遇改善加算制度において処遇改善加算Ⅰ・Ⅱを実施する場合は、「入職促進に向けた取組」、「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」、「両立支援・多様な働き方の推進」、「腰痛を含む心身の健康管理」及び「やりがい・働きがいの醸成」の区分ごとに2以上の取組を実施する必要があります。
このうち「生産性向上のための取組」においては3つ以上の取組が必要となり、うち「⑰厚生労働省が示している『生産性向上ガイドライン』に基づき、業務改善活動の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ、外部の研修会の活用等)を行っている」又は「⑱現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している」が必須となています。
処遇改善加算Ⅲ・Ⅳを実施する場合でも、「入職促進に向けた取組」、「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」、「両立支援・多様な働き方の推進」、「腰痛を含む心身の健康管理」及び「やりがい・働きがいの醸成」の区分ごとに1つ以上の実施が必要です。
そして「生産性向上のための取組」においては、2つ以上の取組を実施することとされています。
このように、職場環境等要件への取組を重視することで、従来の賃金改善に加えて職員の働く環境=職場環境そのものを改善する方向性が打ち出されています。
今回は「入職促進に向けた取組」区分の中の、「①法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化」への取組について解説します。
理念を単なる標語で終わらせず、現場に根付かせ、採用の武器とするために、以下の5つのステップで「実現のための施策・仕組み」を具体化します。
【STEP1】「方針」の徹底的な言語化と定義
まず、方針を「現場での行動」に直結するように定義します
。この言語化のプロセスには、管理者だけでなく、現場のリーダー層も巻き込み、事業所全体で深く議論することが重要です。
- 経営理念:事業所が「誰に、どのような価値を、何のために提供するか」を明確にし、事業所の存在意義に共感する人材を引き寄せることにつなげます。
- ケア方針:理念に基づき、現場で「どのような質のケア」を提供するか(例:自立支援、個別機能訓練重視など)を具体化し、求めるスキルや価値観を明確にします。これにより、求職者は入職前に自分が行うケアの方向性を理解できます。
- 人材育成方針:「理念を実現するために、職員にどのような成長を求め、どのように支援するか」を定義し、職員の将来性を提示します。「自立支援のプロフェッショナルを育成する」といった具体的な目標を設定しましょう。
【STEP 2】 キャリアパスと研修体系の連動性確保
人材育成方針に基づき、職位(初任者、中堅、リーダー、管理者)ごとに求められる能力と受講すべき研修を一覧化したキャリアパス(育成ロードマップ)を作成します。
このキャリアパスは、給与テーブルと連動させることが不可欠です。
単に資格手当を設けるだけでなく、「リーダーシップ研修を修了し、チームマネジメント能力を身につければ、中堅職位に昇格し、給与が〇%アップする」といった、成長と処遇改善が直結する仕組みを明確化します。
また、育成方針に沿った資格取得や外部研修への費用補助制度を整備し、職員が自発的に成長できる環境を制度として保証することが重要です。
【STEP 3】 人事評価制度への理念・方針の組み込み
明確化した理念やケア方針に基づいた行動を評価項目に組み込みます。
これにより、職員は理念を単なる言葉ではなく、日々の業務における評価基準として意識するようになります。
- 理念評価の導入:評価項目に「自立支援への貢献度」「多職種連携への積極性」「生産性向上への提案力」など、方針に沿った具体的な行動を客観的な指標で設定します。
- 連動性の強化:方針に沿った行動が昇給・昇進に直結する仕組みにすることで、職員の行動を変容させます。また、評価結果をフィードバックする際には、理念に照らし合わせて具体的な行動を称賛・改善指導することが、理念の浸透を深めます。この評価制度の整備には、労働法規の遵守も不可欠であり、社労士との連携が特に重要になります。
【STEP 4】 初期研修の強化と浸透
新入職者向けに、理念やケア方針を学ぶ時間を最も重要視します。入
職後の数ヶ月間、新入職者を放置しない「初期研修」の仕組みを整備しましょう。
単なるマニュアル説明でなく、理念に基づいた具体的な成功事例や失敗事例を共有するワークショップ形式などを取り入れ、組織文化を深く理解してもらうことが重要です。
メンター制度の導入:理念やケア方針を深く理解している先輩職員をメンターに任命し、新入職者の精神的なサポートだけでなく、日々の業務の中で理念に基づく行動をOJTとして指導する体制を組み込みます。これは、入職後の早期離職を防ぐ最も効果的な仕組みの一つです。
【STEP 5】採用ツールとしての外部への戦略的発信
明確になった方針を、最も効果的な採用ツールとして活用します。
- ウェブサイト/求人媒体の改善:待遇情報だけでなく、「私たちのケア方針」のページを独立させて熱意を伝えます。職員インタビュー記事では、理念に関する質問を必ず盛り込み、価値観に共感する応募者を増やします。
- 面接での活用:面接官が応募者に対し、事業所の理念を伝え、「あなたはどのように貢献できると思うか」といった価値観の一致を問う質問を必須とします。また、施設見学では、理念を体現している職員が案内役となり、現場の職員が誇りをもって理念を語る姿を見せることが、応募者の心に最も強く響きます。
まとめ

法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化
この「理念・方針の明確化と仕組み化」は、福祉・介護事業所が処遇改善加算の要件を満たすだけでなく、離職率の低下と採用費用の削減という最大の経営効果をもたらします。
理念という「軸」が明確になると、組織全体に一貫性が生まれ、職員は自信と誇りを持ってサービスを提供できるようになります。
この「事業所文化の魅力」こそが、給与だけでは動かない優秀な人材を惹きつける、最強の採用戦略なのです。
ぜひこの機会に、貴事業所の「根幹」を再定義し、仕組みとして現場に根付かせ、最高の採用ツールとして積極的に発信していきましょう。
特に、賃金体系や人事評価制度の整備は法的な正確さが求められます。
社労士と連携し、制度を確実に運用していくことを強く推奨します。
沖縄県浦添市の社会保険労務士、行政書士、1級FP技能士である松本崇が、介護処遇改善加算に関する「法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化」について解説しました。